読書感想:『風に恋う』

先日、整体の患者さんで、娘の吹奏楽つながりの方から、額賀澪著の『風に恋う』という本を貸していただきました。下記はその感想になります。ネタバレなしで書いてるつもりですので、安心してお読みください。では。

 

かつての名門校が、当時生徒だった指導者とその活躍を見て吹奏楽に憧れた才能ある新入生らを迎えたことをきっかけに、様々な困難を乗り越え全国大会出場を目指すという王道ストーリー。

とても楽しくテンポよく読み進められる良書なのだか、王道過ぎてハラハラはしてもどこかで「まあ、これは物語だから」という一瞬客観視してしまう自分がいた。

私自身は吹奏楽経験者ではないが、二人の娘が中学高校とともに吹奏楽部だったので、レベルを上げたり上位大会へ進出する難しさは傍から見て多少は分かっているつもりである。

と同時に、実際にとても優秀な指導者がある中学に4月に赴任して来た途端、その年の吹奏楽コンクールで西関東大会を突破し全国大会進出。全国大会常連になった学校を知っている。その中学の定期演奏会は高校顔負けの実力で皆がエンターティナーだ。

なのでこのストーリー展開を荒唐無稽とはまったく思わない。10代の吸収力、成長スピードは著しい。たった数日の合宿で別人のように変わるケースもザラだ。ただぜいたくを言うならば、もう少しゆっくり話しを進めてもよかったのではないかと感じた。

ストーリーの中の話しで言えば、主人公の高校1年生基君ともう一人の主人公であるコーチの瑛太郎氏の熱いやり取りがたまらなく良かった。瑛太郎氏の自分の生徒の頃を思い出しながら、生徒を気遣う姿勢に心打たれた。

この本中で一番好きなセリフは、瑛太郎氏の

「今日という時間がどれだけいいものだったかを決めるのは、明日以降の自分だ。」「今日のためだけに生きるなよ。明日の自分のために生きろよ」

というものである。

タイトルの『風に恋う』も、ラストまで読んでの読後感を振り返ると納得だ。何を風に例えるのか、風にどんな意味を持たし含めるのか、そしてそれを「恋う」という動詞でまとめる。読み手にあらためて読後の感想を聞いているようなそんなタイトルに感じた。

額賀澪氏の著作を読んだのは初めてだったが、あとがきを読み、『屋上のウインドノーツ』もぜひ読んでみたくなった。もちろん新作にも大いに期待である。

2024年7月
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